
シェア加工所の整備で地域の味と食文化を守る~三吉農園~
ふるさと秋田農林水産大賞の受賞者の業績を紹介します。
令和4年度ふるさと秋田農林水産大賞(農山漁村活性化部門) 三吉農園
※農林水産大臣賞も同時受賞!
1 経営発展の経過
●平成22~24年
代表の加藤マリ氏は、大学卒業後、青年海外協力隊エイズ対策隊員として、ケニアでローカル野菜を活用した栄養指導や、収入向上活動などを行うなかで、次のことを学び、感じて、秋田で農業をすると決心し、帰国。
- 食べることが『生きる』を支え、食べることが『幸せ』を作る。
- 未来を見据えて目の前の土を耕し、種を植えるというロマン。
- モッタイナイ精神、あるモノを活かす精神。

●平成26年
帰国後、農業経験がなかったことから、淡路島での1年間の農業研修を経て仙北市に戻り、近隣の4人の先輩農家に野菜栽培といぶりがっこの製造方法を教えてもらいながら、平成26年に農業経営をスタートさせた。
●平成29年
就農後3年目に「三吉農園」を立ち上げ、県主催の次世代農業経営者ビジネス塾で経営管理の基礎を学び、いち早く経営を軌道に乗せた。
また、県内で農産加工に取り組んでいる女性農業者のネットワーク組織「あきたアグリヴィーナスネットワーク」に登録しており、県内生産者等とのつながりをつくり、経営に活かしている。

●令和2年
食品衛生法の改正をきっかけに、基準を満たした加工施設を整備し、いぶりがっこなどの商品を増産。施設は先輩達と一緒に使えるシェア加工所とした。
●令和3年
田沢湖高原水沢温泉で農家民宿「ラディッシュハウス」を始めた。
2 経営内容
(1)経営理念
三吉農園設立のきっかけの一つに、ケニア人女性でノーベル平和賞受賞者のワンガリ・マータイさんが提唱した環境を守る世界共通語「MOTTAINAI」の活動がある。
経営理念の「あるものをできる限り活かす」は、「MOTTAINAI」の考えが基本にあり、この地にある空気や温度、湿度、風、土、虫、動物、人、伝統、文化など、今ここにある環境をできる限り活かした、自然でたくましさ溢れる美味さを皆様にお届けしたいと考え、活動している。
(2)経営概要
三吉農園は次の3つの部門で組織されている。
①生産・製造部門【三吉農園】
- 作付規模 大根 68a
- 加工施設 50㎡
- 製造量 3,600kg(漬物、惣菜ほか)
②販売部門【三吉商店】
- 自社製品、県内加工メーカー商品を販売
- 販売先 主に首都圏の百貨店、マルシェ等
③宿泊部門【農家民宿「ラディッシュハウス」】
- 施設 250㎡
- 宿泊定員 25人
(3)集団の組織

3 地域の特産を活かした6次産業化の取組
(1)こだわりの野菜栽培
こだわりのいぶりがっこを製造するため、原料となる野菜を無農薬・無化学肥料で栽培するが、三吉農園がある田沢湖生保内地区は標高が高く、また、仙岩峠から吹き下ろす東風など、農産物生産に適しているとは言えず、思うようなスタートとはいかなかった。
しかし、この環境下で、大根だけがたくましく育ち、現在では、春から夏にかけて育てた緑肥のすき込みと少々の米ぬかだけで栽培できている。
作付している品種は固定種とF1品種の6つを組み合わせているが、ゆくゆくは生保内地区に適した固定種を見つけ、地元産の肥料だけで栽培していく構想を持っている。

(2)いぶりがっこの製造
野菜栽培同様、いぶりがっこの製造についても、先輩農家に教えてもらいながらスタートさせた。人工着色料や保存料は使用しないなど、こだわりのいぶりがっこを製造し販売している。
加工施設については、食品衛生法の改正をきっかけに、保健所の指導のもとで、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理を導入し、令和2年に購入した空き家を改築して、食品衛生法の基準を満たした加工施設を整備した。

(3)多彩な商品ラインナップ
漬物製造をしていない時期には、いぶりがっこの端材や地元で採れる山菜など、あるものを活かし「いぶりがっこタルタル」や「野草のジェノベーゼ」などをはじめとした多彩な商品の製造にも力を入れている。
このような商品開発をけん引しているのは、三吉食堂で調理をしていた父で、プロの目線から随時レシピ開発に携わっている。

(4)商品は主に首都圏で販売
これらの商品の販売は、販売担当部門の「三吉商店」が担当し、主に首都圏の百貨店で開催される催事のほか、数多くのマルシェやイベントに積極的に出店し、自社商品に限らず県産の加工食品全般を取扱い販売している。また、自社のウェブサイトも充実させ、ネット販売も実施している。

4 地域農業、地域社会に及ぼした影響
(1)シェア加工所の整備で地域の味を守る
秋田にあるユニークな食文化でもあり、作り手によって色々な味が楽しめるいぶりがっこ。
そして、素敵な師匠たち。
食品衛生法の改正が、引退のきっかけではなく、新しい挑戦の一歩になれば・・・
就農以来、野菜の栽培や漬物加工技術を教えてもらった先輩農家は高齢化していることもあり、食品衛生法の改正に対応できず廃業の危機にあった。
食品衛生法の改正が、引退のきっかけではなく、新しい挑戦の一歩になれば・・・との思いから、整備した加工施設を先輩達と一緒に使えるシェア加工所とした。加工所は、重量物を移動させない等、女性の使用を前提として設計されている。
漬物職人が集まるシェア加工所を整備したことで、加工技術はさらに磨かれると同時に受け継がれ、商品力の向上や新たな商品づくりにつながっている。
来期、さらにシェア加工施設の増設を予定しており、先輩農家の経営と「味」を守り、地域の漬物文化の維持・発展を図っていく。

(2)コロナで秋田に行けない→ じゃあ東京で秋田を感じてもらおう!
新型コロナウイルスの感染拡大で、観光施設などの直売コーナーは閑散とし売上が落ち込んだため、先輩達のいぶりがっこも三吉農園が催事やネットで販売した。
学生時代から先輩農家のいぶりがっこの販売を通して味の特徴を把握しているため、百貨店の催事やマルシェでの販売では、地域や客層に合わせて自社製品だけでなく先輩達の商品を出品し、販売する地域のニーズに合わせて売り込んでいる。

また、秋田を感じてもらうため、県内各社で製造された比内地鶏やハタハタ関連商品、稲庭うどんなど秋田を代表する食品を取り扱い、秋田の加工食品全体の売り出しも行っている。
自社商品に限らず県産の加工食品全般を販売するスタイルが広く知られ、信用を得たことで、百貨店の食品売り場でのコーナー設置につながり、秋田の食品の情報発信にも大きく貢献している。
幅広く販売チャネルを獲得したことで、首都圏のお客様が三吉農園に足を運ぶきっかけとなっており、地域への波及効果のほか、交流人口の増加にも寄与している。

(3)農家民宿「ラディッシュハウス」
令和3年には、田沢湖高原水沢温泉で農家民宿「ラディッシュハウス」を開業した。三吉農園のいぶりがっこを購入したお客様も来てくれるようになり、首都圏との交流人口増加につながっている。
また、県外学校の学習旅行を積極的に受け入れ、畑での作業や薪割り等を体験してもらうなど、地域と首都圏との交流拡大や、仙北市のPRにも一役買っている。
現在は民宿と畑との距離が遠いため、民宿の近くに畑をつくって、宿泊客がもっと気軽に農業体験できる環境を整備する予定である。
今後は田沢湖の観光地を巡れるように、E-バイク(電動自転車)を導入するなど観光分野も盛り上げたいと考えており、農業以外の分野でも活躍が期待される。

お問合せ先
お問合せ先 | 秋田県 農林水産部 農林政策課 企画・広報チーム |
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電話番号 | 018-860-1723 |
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