令和5年度豊かなむらづくり全国表彰事業の受賞事例を紹介します。

横岡集落(にかほ市)「そばの力で農村集落を次世代へ~伝統と革新が息づく力強いむらづくり~」

※農林水産大臣賞受賞

1 むらづくりの動機、背景

ア 横岡稲倉そば生産組合によるそばの生産振興

 旧象潟町では、米の生産調整が全国的に強化された折、水稲が作付けされなくなった田にそばを作付けするようになり、そば栽培が始まった。横岡集落周辺では、現在も稲作を主産業としており、転作作物としてそばの栽培が盛んである。

 中山間地域である横岡集落において、耕作放棄地を解消して地域の景観を保全しながら、そばの生産振興を図るため、平成23年に齋藤喜久男氏が「稲倉そば生産組合」を設立した。はじめは喜久男氏と妻のかおるさんが中心となって耕作放棄地の所有者のもとを一軒一軒地道に訪ね、積極的にほ場を集積していった。設立当初の平成23~26年は、組合員5名でコンバイン1台を使用し、約6haでそばの作付けを行った。平成27年、横岡地域に昔からある農地を守り、維持したいという思いから改名し、集落名の「横岡」を冠して、「横岡稲倉そば生産組合」(以下、生産組合)とした。この頃には、組合員は10名まで増え、作付面積は約33haまで拡大した。

 令和4年度現在、生産組合は、集落内の専業農家10名、兼業農家1名、計11名で構成される。横岡集落に留まらず広い地域で農地を借り受け、コンバイン3台で約86haにそばを作付けしており、にかほ市内のそば作付面積の約30%を占めるに至っている。

 生産組合のそば作付面積は県内7位で、そばの大規模生産のパイオニアとして地域内外から注目されている。近年は、農地所有者側から「自分の農地を使ってほしい」と声をかけられることも多く、現在、集落内農用地の約3分の1を利用集積している。

 そば栽培に適さない水はけの悪い農地が多い中でも、好条件の土地に劣らない収量を確保するなど、優れた生産技術が評価され、令和2年度には、第32回全国そば優良生産表彰事業で「一般社団法人日本蕎麦協会会長賞」を受賞した。

 また、そば生産を通して地域活性化に貢献している功績が認められ、令和3年度ふるさと秋田農林水産大賞・農山漁村活性化部門で大賞を受賞した。

イ 地域おこし協力隊の加入による新たなむらづくりの展開

 令和3年4月、にかほ市の地域おこし協力隊として中山氏と笠間氏の2名が就任したことで、横岡集落のむらづくりが新たな展開を見せ始めた。

 東京都出身の2人は、これまで日本中を旅行し、各地の魅力をWebで発信するなど、観光分野を中心に活躍してきた。にかほ市の観光事業の立ち上げを任務として協力隊に就任し、観光資源を探していたところ、市の観光課から齋藤組合長を紹介され、出会ったその日にそば打ちを体験し、打ちたての十割蕎麦の味に感動したという。

 その後も地域との交流を通して住民の人柄に惹かれ、また、山と海が近い独特の環境や美しい棚田等、他地域にない唯一無二の魅力を感じ、横岡集落を拠点として活動する決心をした。

 地域住民と日常的に関わりながら、各種行事へ積極的に参加し、「都会出身者に対して”田舎での生活の豊かさを体感し、自分の田舎を作る”価値を提供する」とのコンセプト
のもと、「Ventos」の団体名で活動している。現在は、地域の観光資源を発掘しながら、今春開設予定のゲストハウスを活用した交流人口の増加や、集落で収穫したそばや米をはじめとした農産物の商品開発及びブランディングを計画している。

2 むらづくりの推進体制及び連携してむらづくりを行う他の組織との関係

 集落のまとめ役を担う横岡自治会は、平成17年の市町村合併を機に設立され、集落の共有財産の管理のほか、諸活動の運営・補助を行いながら、地域住民の連帯感醸成や目的意識の共有を図っている。

 集落の農業の中核を担う営農組織である生産組合は、組合長を中心に一丸となって活動しており、地域農業の中核を担っているだけでなく、そばを通して地域外との交流を生み出し、地域活性化にも貢献している。

 また、生産組合は、他集落のそば生産組織と「由利地域そば生産者協議会」を組織しており、現在は齋藤組合長が協議会の会長も務めている。協議会では、情報交換や現地研修会、新そば発表会等を開催しており、集落を越えて広域でそば栽培を盛り上げる活動を行っている。

 にかほ市役所は、グリーン・ツーリズム活動の事務局を担っており、自治会や生産組合と行政が連携して都市部の子供たちの受け入れ体制を整備している。

 なお、地域住民は、働くことが趣味であるかのような働き者が多く、行事や共同作業にも協力的で仲が良く、一体感の強い地域である。

【推進体制図】
農林水産省疏水百選土木学会推奨土木遺産「上郷温水路群」
守りたい秋田の里地里山50「横岡の棚田」

3 むらづくりの農林漁業生産面への寄与状況

ア 横岡集落における農林漁業生産の取組状況

 横岡地域の耕作放棄地や水田転作地で湿害に弱いそばを作付けするには、徹底した排水対策を根気強く継続することが重要となる。生産組合では、明渠と暗渠を3年毎に施工しているほか、定期的に実施している土壌診断の結果に基づいて、適期は種や施肥量調整を行うなど、収益向上につながる高度な栽培技術が確立されている。

 また、平成29年には集落内に乾燥・調製施設「夢工房」を新たに建設し、収穫以降の作業も含めてこだわり抜いたそば生産を行うようになった。

 こうした取組により、単収は例年50kg/10aを達成しており、にかほ市の平均単収を10kgほど上回っている。

イ そばのブランド化や後継者確保等への寄与状況

 生産組合の齋藤組合長は、もともと趣味としてそば打ちを始めたが、今ではそば打ち体験の講師役を務めるまでになっている。生産組合設立後は、地域で収穫したそばの実を石臼で挽いてそば粉にし、そば打ち体験で使用しており、そば粉100%につなぎとして卵、豆腐を加えたこだわりの十割そばを提供している。

 グリーン・ツーリズム活動、年越しそば打ち体験、他自治会でのそば打ち教室等、様々な場面でそば打ち体験を実施して好評を得ているだけでなく、挽き立てのそばの香りが毎回参加者を虜にしており、横岡産そばの認知度向上に貢献している。

 また、にかほ市でのそば栽培は、気象リスクの分散を図るため、夏そばと秋そばを組み合わせた二期作を基本としているが、夏そばの収穫期が早いことも特徴的で、全国に先駆けて新そばを提供している。東京都内の飲食店で毎年8月に開催される「新そば祭」では、平成28年から横岡産そばを提供し、県外の消費者にも積極的にPRしている。清涼感のある香りで味わい深い横岡産そばは、毎年、消費者から高い満足度を得ており、リピーターも増えてきている。

 さらに、そば文化を次代へ継承するため、由利地域の若手農業者団体「由利地域農業近代化ゼミナール協議会」に対しても、生産組合がそば打ち指導を行っている。

若手農業者へのそば打ち指導

4 むらづくりの生活・環境整備面への寄与状況

ア 横岡集落における生活・環境整備面の取組状況

 生産組合は、そば栽培により耕作放棄地の解消を図っており、地域の景観保全にも貢献している。集落から約6kmの象潟IC周辺では、耕作放棄地の増加により景観が悪化してきていたが、生産組合と他のそば営農組織が連携し、木の伐採・抜根を行って畑を造成して、そばの栽培を始めた。これにより、鳥海山麓から日本海沿岸まで小区画の棚田が並ぶ豊かな景観が復活し、そばの開花期には白い花が咲き誇り、海や空の青色と美しいコントラストをなす絶景を臨むことができる。

 また、農業用水や流雪溝の管理が住民主体で定期的に行われており、作業に当たっては集落内組織「普請頭(ふしんがしら)」が先頭に立って作業を取り仕切っている。普請頭は、構成員のほぼ全員が活動に参加するなど、県内でも類を見ないまとまりのよい管理組織である。

 さらに、横岡集落が共同で日本型直接支払制度を活用し、住民が一体となって農地保全活動に取り組んでおり、地域の自慢である棚田もきれいに維持管理されている。

イ 横岡集落におけるコミュニティ活動、都市住民との交流等の取組状況

 横岡集落は、伝統的な芸能・文化を大切にしながらも、地域住民が提案する新しい企画も積極的に取り入れており、運動会、文化講演会、敬老会、神明社祭典前夜祭、年越しそば打ち体験等を開催している。

 毎年12月29日に横岡自治会館で開催している年越しそば打ち体験は、参加申込が始まるとすぐに定員が埋まるほどの人気行事で、例年100人以上が参加している。

 コロナ禍の中でも、横岡産そばの知名度や関心を高めるための取組を絶やさずに継続しており、令和2年度からは募集範囲をにかほ市全域に拡大し、感染症対策を徹底しながら開催している。

 小学校や町内会等から依頼を受けて開催しているそば打ち教室にも毎年多数の参加者が集まるほか、にかほ市の婚活イベント等の交流事業への協力も依頼されるなど、地域住民の交流促進において、横岡集落で育まれたそば文化の果たす役割が大きくなってきている。

 また、平成22年から自治会が月1回発行している「自治会だより」は、集落行事や共有財産の管理等のお知らせを掲載しており、自治会のコミュニケーションツールとして重宝されている。平成30年には記念すべき第100号の発行を達成しており、毎月ナンバリングして保管する住民も多いなど、地域から愛される広報紙となっている。

 さらに、都市農村交流にも平成22年から継続して取り組んでおり、地域外から抵抗なく人を受け入れる地域性が培われている。にかほ市役所、横岡自治会、生産組合が協力し、毎年8月に東京都港区の子どもたち約20名の農泊を受け入れており、大根の播種、野菜の収穫等の農業体験や、そば打ち体験等を2泊3日の行程で企画し、都市部との交流を深めてきた。コロナ禍により受入が困難となり、令和元年度から中止を余儀なくされてきたが、地域おこし協力隊が改修を行っているゲストハウスを拠点とし、新たな形態で受入・交流を再開すべく、検討が進められている。

大人気の年越しそば打ち体験

  • 地域住民有志の愛好会が主催するグランドゴルフ大会。年数回開催され、毎回30~40人の地域住民が参加する人気のイベントである。
  • 6月の神明社祭典の前夜祭。横岡自治会館前の仮設舞台で住民がそれぞれ準備した出し物を披露しており、30~40代の若い世代も積極的に参加し、毎年盛り上がりを見せている。
  • 春に上郷小学校横岡分校跡で開催される運動会。雨天でも体育館で決行され、他地域に移住した住民も運動会に合わせて子どもを連れて戻ってくるなど、人気行事として定着し、40年以上に渡って続けられている。
運動会の様子
敬老会の様子
神明社祭典の前夜祭
鳥海山日立舞(県指定無形民俗文化財)

ウ 横岡集落における地域への定住促進等の取組状況

 地域おこし協力隊Ventosでは、集落内の古民家を改修してゲストハウスとして開設するアイデアを考案した。対象施設は自治会館の向かいにある立派な古民家で、10年弱空家となっており地域でよく知られた建物だったため、地域住民の同意も得やすかった。

 改修に着手する前に地域住民への説明会を開催し、作業状況を自治会だよりで連載して紹介しているほか、各家庭を回り蔵で眠っていた大事な古家具を譲り受けて再利用するなど、ゲストハウスを身近に感じてもらえるよう、住民とのコミュニケーションを大事にして、地域を巻き込みながら改修を進めている。

 また、作業をイベントとして企画することで、交流人口の増加とゲストハウスへの愛着醸成を図った。SNSや市の広報誌を通じて作業協力者を募集した結果、集落の子どもたちや農家から、県内の学生、社会人、都心の学生まで、若い世代を中心に地域内外の幅広い層から協力が得られた。令和4年に実施した「壁の漆喰塗り体験」では、家族連れを中心に30~40人が参加し、「貴重な作業体験を通して人とのつながりが新たに生まれた」等と喜ぶ声が聞かれた。今年3月、ゲストハウス「麓〼-Rokumasu」としていよいよ完成を迎え、4月下旬にはオープン予定としてる。

 ゲストハウス「麓〼-Rokumasu」は、他地域との関係人口創出のみに留まらず、半農半Xや二拠点生活、田舎でのスローライフ等、多様なライフスタイルに合わせた定住促進や、宿泊客への農業・漁業体験の提供を行うための地域拠点として活用する計画で、ゆくゆくは、農林水産業の後継者確保につなげていきたいと構想している。

お問い合わせ先

お問合せ先秋田県 農林水産部 農林政策課 企画・広報チーム
住所〒010-8570 秋田県秋田市山王4丁目1番1号
メールアドレスinfo@e-komachi.jp
電話番号018-860-1723
FAX番号018-860-3842

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