令和3年度豊かなむらづくり全国表彰事業の受賞事例を紹介します。

農事組合法人永田ホープフルファーム(鹿角市)「集落型農業法人を主体とした全員参加による地域活性化」

農林水産大臣賞受賞

1 むらづくりの動機、背景

ア 農事組合法人の設立に至った動機、背景

 永田集落では、昭和51年に集落内の兼業農家15戸が「永田生産組合」を組織し、ミニライスセンターとコンバイン2台を導入して、共同で収穫と乾燥・調製作業を行っていたが、農家数の減少と高齢化の進行により、将来的な集落機能の維持や、農地の保全管理の継続に危機感を持つようになった。

 そうした中、集落機能の維持のためには、効率的な生産体制を確立して体質強化を図り、農業所得を確保していくことが重要と考え、平成19年3月に集落内18戸が参加し、新たな任意組織として「永田集落営農組合」を設立した。

商談会の様子

 設立後も、更なる組織力強化に向けて、3年後の法人化を目指した地域の話し合いを進め、関係機関の協力を仰ぎながら、平成21年3月に任意組織を法人化し、「農事組合法人永田ホープフルファーム」を設立した。

イ 地域還元できる品目の検討と実践

 永田集落は、農家のほとんどが兼業農家であり、労働力に制約がある中で、効率的な営農体制を整えるため、集落全体で生産活動に取り組めることに加え、労賃を地域還元できることを前提に、複合品目の検討を行った。

 当初は、耕地と労働力の効率的な利用を考慮し、地元の農業協同組合との契約によるスイートコーンの生産と、補完品目として選定したカボチャ、そば、えだまめの作付けを行った。

 スイートコーンは、品種の組み合わせ等により長期出荷を狙ったものの、気象条件によって生育にバラツキが生じ、収穫期間中に2~3日程度の空白が発生するなど、労働力を有効活用できず、十分に地域還元できなかった。

 また、カボチャやそばについては、転作田での作付けであり、排水不良による影響を受けやすく、安定生産には課題が多かった。

 このように検討を続けた結果、収益性が高く、品種の構成によって作期の幅が広がること、機械化体系が確立されており、耕地と労働力の有効活用に適していること、県や市の重点推進品目であり、支援事業が充実していたことなどから、えだまめを主力品目とすることとした。

えだまめほ場

2 むらづくりの推進体制

ア 組織体制、構成員の状況

 農事組合法人永田ホープフルファーム(以下、「法人」という)は、地域内の農家25戸のうち18戸により構成され、次の体制により業務を行っている。

 役員の役割分担として、代表理事は管理運営及び統括、副代表理事は機械管理統括、常務理事が現場総括を担当し、各理事をチームリーダーとして部門ごとに作業を実施している。

法人の組織体制

イ 連携してむらづくりを行う他の組織、団体及び行政との関係

 永田集落の各種行事や活動の実施主体である永田自治会のうち、環境保全活動を担当する「永田環境保全会」は、会員の多くが法人の構成員にもなっている。

 永田環境保全会が中心となり、水路の泥上げ、水路の清掃、草刈り等により生産基盤の維持と質的向上を図っている。

 また、行政機関と連携し、移住推進の施策や移住体験ツアーを受入れている。

ウ 他の組織、団体との関係及び参加状況等について

 鹿角市内の4つの農業法人とともに、「鹿角市法人連携推進協議会」を設立し、地域内の高齢者施設や宿泊施設、学校給食センターへの農産物を供給しているほか、商談会に出展し農産加工品のPRを行うなど、市全体の農業の活性化を牽引する役割を担っている。

3 むらづくりの農林漁業生産面への寄与状況

ア 農業生産の取組状況

 経営規模は、21ha(平成21年)から32ha(令和2年)に拡大し、地域内の農地(49ha)の大部分を法人が担っている。

 作付品目と面積構成は、水稲21.2ha、そば3.3ha、えだまめ6.7ha、カボチャ0.5ha、スイートコーン0.2ha、施設野菜等0.1haとなっており、水稲+野菜の複合生産体系が定着している。

イ 生産の組織化と複合化による生産構造の改善

 古くから、永田地区の農家はほとんどが兼業農家であり、作業時間や労働力に制約がある中で、限られた労働力を効率的に活用する必要があった。

 平成19年の任意組織設立前の「永田生産組合」は、実質的には機械利用組合であり、個人ごと、ほ場ごとに収穫、乾燥・調製を行う方式で、決して効率が良いとは言えない状態であった。

 その後に組織した「永田集落営農組合」でも、農地をそれぞれが管理しており、組織化による作業の効率化は図られていなかった。

 その後、法人として経営を開始するに当たり、集落営農のモデルとなる法人経営を目指し、経理事務を行うパソコン等事務機器の導入や、複合経営に向けた生産技術、経営管理手法の確立や、直売所の運営に関する研修活動にも取り組んだ。

共同での田植え作業

 複合品目の選定においては、試行錯誤の結果、えだまめに取り組んでいる。

 作業は、「全員参加のえだまめ栽培」をモットーに、兼業農家の構成員が出勤前に機械で収穫し、収穫した枝豆を午前中に集落の女性等が選別・調製作業を行うことで、限られた労働力でも昼には出荷できる体制を構築し、地域における作業体系を大きく変えている。

集落の女性によるえだまめ選別作業

 また、えだまめを補完する品目として、ほうれんそうやせりといった施設野菜を導入することで、周年での雇用体制を整備し、非農家を含めた集落住民の安定的な就業機会の確保につなげているほか、収益を従業員への給与として地域に還元することで、地域住民の生活の安定・質的向上にも貢献している。

 法人は、鹿角市内の4つの農業法人とともに、「鹿角市法人連携推進協議会」を設立し、地域内の福祉施設や学校給食センター、宿泊施設に農産物を供給している。

 福祉施設や給食センターでは、栄養バランスを考慮するため、宿泊施設はメニューのバリエーションが豊富であるため、いずれも多様な野菜を必要とすることから、協議会では、施設の栄養士や担当者と随時情報交換を行って、取引先のニーズに的確に把握し、生産する野菜の品目を決定している。

 生産に当たっては、各法人が品目を分担して生産し、それぞれが農作物を持ち寄ることで、各々の経営に負担をかけずにバリエーションと量を確保している。

 協議会が地元産の野菜を安定した品質と量で供給することで、取引先との信頼を構築し、協議会の会員である5法人にとっても、地元に必要とされるものを生産することがモチベーションにつながっており、今後、更なる事業の拡大を検討している。

 この他、協議会では、商談会に出展して農産物や農産加工品のPRを行い、法人の主導により共同出荷体制を整備したことで、首都圏の食品卸業者等との取引につながっているなど、市全体の農産物の知名度向上と農業の活性化を牽引する中心的役割を担っている。

ウ 地元加工業者との連携による農作物の付加価値向上

 「全員参加のえだまめ栽培」により、鮮度の高いえだまめを生産できるようになったことを契機として、地元にある食品加工業者と連携し、えだまめの美味しさを生かした冷凍商品の開発に挑戦した。

 品種は、食味が優れる県オリジナル品種の「あきた香り五葉」や「あきたほのか」を使用し、風味を損なわないCAS冷凍を採用により、美味しさにこだわって商品づくりを行った。

 商品は「日本一おいしいと言ってもらいたいえだ豆」と命名し、首都圏の業者と契約販売しており、食味の良さや調理の簡便さから、取引業者から高く評価されている。

 こうした取組は、地域産品の評価の底上げにつながっているとともに、他の農業者の模範となる取組として、地域内でも注目されている。

開発した冷凍えだまめ

4  むらづくりの生活・環境整備面への寄与状況

ア 地域の生活・環境整備面の取組状況、女性の社会参画の促進状況

 「永田環境保全会」が中心となり、集落全戸が参加して、水路の定期点検・清掃・泥上げ、草刈り、水質のモニタリング等を行うことにより、生産基盤の維持と質的向上を図っている。

 また、小学生を対象とした生きもの調査や、地元幼稚園児を対象とした農業体験を実施するなど、世代間交流や食農教育の場として機能している。

幼稚園の田植え体験

 活動に当たっては、スイセン球根の植栽や、集落内の神社の祭典と合わせた清掃活動など、別途、軽作業を計画し、多くの女性が参加できるよう配慮している。これらの地域貢献活動は、地域内コミュニティの結束を強める一助となっている。

環境保全会の取組

イ 都市住民との交流への寄与状況、地域への定住促進

 地元出身の首都圏在住者や、取引のある顧客を対象として実施したえだまめ収穫等の農作業体験や、集落の空き家を活用した「きりたんぽ鍋」づくり等の企画は、参加者から好評を得ており、地域住民と都市住民との交流機会を創出しながら、関係人口の増大にも寄与している。

 この活動においても、集落の女性が感性を発揮し、参加した首都圏在住者に対して、女性の視点で地域の魅力を発信しており、活動を通じて、地域住民が地域の魅力を再発見できる貴重な機会にもなっている。

きりたんぽ作り体験会

 鹿角市では、都市からの移住促進に向けて、移住業務を専門とする地域おこし協力隊を「移住コンシェルジュ」に任命し、相談会やソーシャルメディアでの情報発信、体験ツアーなどを展開している。

 法人では、移住コンシェルジュとの連携のもと、旬の農作物を紹介するなど、農業に親しみを持ってもらうための情報を発信しているほか、体験ツアーのコースの一つとして、法人の農地や施設を利用したえだまめの調製作業やスイートコーンの収穫体験等、季節折々のメニューを提供している。

 地域には県外から移住してきた若者が2名おり、将来的には地域内での就農を目指している。法人では、営農や地域行事への参加を働きかけ、将来の担い手として育成を図るとともに、今後は給与体系の整備や社会保障を整備し、若者が就業先として選択しやすい環境を整えていくこととしている。

お問い合わせ先

お問合せ先秋田県 農林水産部 農林政策課 企画・広報チーム
住所〒010-8570 秋田県秋田市山王4丁目1番1号
メールアドレスinfo@e-komachi.jp
電話番号018-860-1723
FAX番号018-860-3842

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